Blog | 2026年7月16日

補助金は「探す」ものから「届く」ものへ|その代金と、AIに入れてはいけない情報の線引き

「補助金は、AIが勝手に見つけて配りに行かないといけない」——壇上の言葉に、川崎で「みっけ」を作った私たちは深くうなずき、同時に自分たちの限界も突きつけられました。最終回は、その代金の話。そして、あなたのお店がAIに何を入れてよいかという実務の話です。

補助金は「探す」ものから「届く」ものへ|その代金と、AIに入れてはいけない情報の線引き

連載「NEXT BUSINESS EXPO 2026 現地レポート」(全5回)

  1. AIにメールを書かせるだけではもったいない
  2. 「全社でやろう」と言った瞬間にAI導入は止まる
  3. 「電力は、庶民とハイパー企業の戦いになる」
  4. 「うちにはデータがない」は勘違いです
  5. 補助金は「探す」ものから「届く」ものへ(この記事)

2026年7月16日、東京・浜松町の東京都立産業貿易センターで開かれた「NEXT BUSINESS EXPO 2026」。堀江貴文さんと、noteや弁護士ドットコムのサービス設計に携わってきた深津貴之さん(株式会社THE GUILD代表取締役・横須賀市AI戦略アドバイザー)が、「エージェント時代、人間の仕事はどう再設計されるのか?」というテーマで語り合いました。かわさき楽AIサポートは、このセッションを現地で聞いてきました。この連載では、そこで語られた内容を、川崎で暮らす方・商売をされている方の目線に引き寄せて紹介します。

連載の最終回です。今回は少し、耳の痛い話も正直に書きます。

「補助金は、勝手に見つけて配りに行かないといけない。AIが勝手に」

壇上でのこの発言が、最終回のテーマです。日本の補助金・給付金は「申請主義」——制度を知って、探して、書類を書いて、提出した人だけが恩恵を受けられる仕組みです。その結果、最も助けが必要な人ほど、制度が届かない。私たちも川崎での仕事の中で、この現象を何度も見てきました。だから「探させるのではなく、AIが勝手に見つけて配りに行け」という壇上の言葉には、深くうなずきました。

それ、私たち、川崎で作ってあります

実は、この方向のツールを既に作って公開しています。

  • かわさき補助金みっけ事業の悩みを文章で書くだけで、国(jGrants)と川崎市・神奈川県の公募中の補助金・助成金を横断検索し、出典と期限つきで提示します。無料・登録不要。
  • かわさき給付金みっけ個人向け。暮らしの困りごとを書くと、国・神奈川県・川崎市の給付金・手当・助成の中から使えそうな制度を提示します。こちらも無料・登録不要。

正直に書きます。壇上の要求には、届いていません

「みっけ」は、探す側の負担を大きく減らしました。でも、壇上の要求は「配りに行け」です。みっけは来てくれた人にしか機能しません。なぜ配りに行けないのか。利用者の個人情報を持っていないからです。誰がどんな状況にあるか知らなければ、「あなたはこの制度が使えますよ」と届けようがないのです。

「プライバシーは、お金の一種です」

ここで効いてくるのが、深津さんのこの指摘です。「プライバシーは、お金の一種。どれだけ差し出せるかが、価値につながる」。

補助金を「配りに行く」ために必要な情報を並べてみると、実感が湧きます。業種、従業員数、売上規模、設備投資の予定、過去の申請履歴。給付金なら、子どもの人数と年齢、世帯収入。「みっけ」が登録不要で使えるのは、裏を返せば「何も届けられない」という限界と表裏一体なのです。これは技術の問題ではなく、構造の問題です。制度の恩恵は、実は「個人情報という通貨」で買っている——そういう構造が既にあるのです。

「AIにいちいち入力するのが面倒。覚えておいてほしい」という便利さも同じです。システムに記憶させるとは、システムに預けるということ。速さの代金も、プライバシーで払っています

だから「手元で動かす」という選択肢が出てきます

個人情報を差し出す先が海外のクラウド(インターネット越しの外部サーバー)だとしたら、不安が残ります。そこで出てくるのが「オンプレミス」(自分の手元のパソコンやサーバーだけで完結させる方式)や、前々回紹介した「ソブリンAI」(自国で管理するAI基盤)です。

私たちも試しています。デジタル庁が公開したAI基盤「源内(Gen-nai)」に、ゴールデンウィークを使って日本の全法令を投入し、法令調査システム「ことのり」として無料公開しました。国の側でも、政府調達で国産の大規模言語モデル(LLM=AIの本体)が選ばれ、2026年8月からトライアル、2027年4月から本格調達という流れが公表されています。国も「主権」を選び始めているのです。

で、これはあなたのお店の話です

ここまでは国や行政の話に聞こえたかもしれません。でも、お店や会社を営むあなたは、実は二つの立場を同時に持っています。

  • 預かる側:顧客名簿、予約履歴、施術記録、家族構成のメモ。お客様の信頼に基づいて「差し出してもらった」情報を持っています。
  • 差し出す側:その顧客データをAIに入力した瞬間、あなたはお客様の情報を、さらに第三者へ差し出しているかもしれません。

「AIを使うのが怖い」という感覚は、正当です。ただ、怖がるポイントがずれていることが多いのです。正しく線を引けば、怖がらずに使えます。

実務ガイド:AIに何を入れて、何を入れないか

入れないもの

  • 氏名、住所、電話番号、メールアドレス
  • マイナンバー、口座番号、クレジットカード情報
  • 健康状態、通院歴、身体に関する記録
  • 「この人が読んだら気まずい」内容

入れて構わないもの

  • 数字だけの情報(金額、件数、日付)
  • 誰のことか特定できない形にした内容

最大のコツは「ダミー置き換え」

「山田花子様」は「顧客A」に、「川崎の◯◯工務店」は「取引先B」に置き換えてから入力します。やってみると分かりますが、多くの場合、AIに名前は要りません。「顧客Aは3ヶ月来店がありません。どんな案内を出すべきですか」で、十分に機能します。

あわせて、使っているAIの設定で「入力内容を学習に使わせない」設定になっているかを確認しましょう。5分で終わります。最後の判断基準はこれです——「これが外に出たとき、この人に謝れるか」

連載5本を、1行ずつにすると

  1. 第1回:メールで止まるな。効果の桁を上げろ。
  2. 第2回:旗を待つな。飛び地から始めろ。
  3. 第3回:制約は物理で来る。今のうちだ。
  4. 第4回:生のデータは売れない。読める形にした人が売れる。
  5. 第5回:読める形にするには、差し出してもらうしかない。その代金は、お金ではない。

そして連載全体を貫く宿題がこれです。「桁を上げるほど、預かるものが重くなる」。メールの下書きなら誰も傷つきません。経営判断なら数字の責任が生まれます。お客様一人ひとりへのアプローチまで行けば、それは人の人生を預かる重みです。

かわさき楽AIサポートがやっていること

私たちは自分たちを「AIの専門家」ではなく「整理役」だと考えています。整理するのは4つの線です。AIに任せる部分。人が判断する部分。今は変えない部分。そして、絶対に渡さない部分。

担当の内はIT業界26年、うち15年以上は金融システム——他人のお金と人生を預かる装置——のプロジェクトマネジメントをしてきました。川崎エリアの中小企業・個人事業主の方と、基本的に無料ツールだけ、「一緒に覚える」方式で支援しています。業務改善コンサルティングは成果報酬型(削減工数×3,000円/月・上限5万円、成果がなければ費用なし)。拠点は溝の口駅徒歩4分、川崎市内は訪問対応、初回相談は無料です。

「AIを使いたいけれど、お客様の情報を入れていいのか分からない」——その慎重さは、財産です。一緒に、線を引きましょう。線さえ決まれば、あとは楽です。

この記事は、当社の公式note記事「補助金は「探す」ものから「届く」ものへ」を、市民の方・AIになじみのない方にも読みやすいように書き直したものです。内容(数字・出典)は元記事と同じです。

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